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先日、墓マイラー 14という記事を書きました。
今日はその時墓参した、賀川玄悦先生(1700-1777)を紹介します。
(↑↑名古屋大学医学部史料室HPより https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medlib/history/archive/print/1859kagawa.html)
落語家っぽいビジュアルの賀川先生ですが、1700年、江戸時代後期に、槍の達人で、藩士であった父のもとに、彦根藩、今でいう滋賀県に生まれました。
ただ、婚外子であったため、家を継ぐことは出来ず、7歳の時に農家であった母の実家に出されました。
(これ以来、賀川と名乗るようになったそうです。)
個人的にはこの生い立ちが、後々彼が産科に傾倒していく基盤になっているような気がしてなりません。。。
玄悦は農家の道には進まず、まずは鍼灸、按摩を学び、後に京都に出て、昼は鍛冶屋(鉄銅機の売買)、夜は鍼灸、按摩をして生活をしながら、産科については独学で学んだそうです。
(苦労人の元鍼灸師、いいですね~~)
40歳の時に、近所の夫人が難産で苦しんでいるのを診た玄悦は、秤の分銅をかける鉤(※)を、死産の際に胎児を引っ張り出す器具として用いることを思いつきました。
(※・・・因みに提灯を吊る鉤だったとも言われています。鍛冶屋の経験がある玄悦ならではの発想だったかもしれません。)
これは後代、鉗子分娩の発明に繋がります。
江戸時代の出産と言ったら、母子ともに命がけです。
難産の場合に、胎児を母体から出せないと、そのまま母体にまで影響が及び、最悪、母子ともに死に至ることも珍しくありませんでした。
玄悦が考案したこの手術(回生術)によって、たとえ死産であっても、母体を救うことには数多く成功したようです。
このことは当時、いまだに迷信的な信仰が色濃く残っており、産婆が中心となって行っていた出産現場に、積極的に医師が関わるきっかけになったそうです。
玄悦は50歳の頃、妊娠中期以降の正常胎位は、頭が下であることを唱えました。
(今では考えられませんが、当時は臨月まで頭が上であり、陣痛の時に胎児が初めて頭を下に向けて出産される、と考えられていたそうです。)
このことは、同時期にアメリカの産科医であるスメリーも言っていますが、二人は特に面識があったわけでもなく、玄悦のこの指摘は世界初と言っていいと思います。
(・・・まあ、スメリーの考えを参考にしたのでは?という厳しい指摘もあるようですが。。。)
これ以降、産科に関する臨床と研究をさらに進め、後に”賀川流産科術”と言われる、世界的に有名な産科術の元を作り上げました。
これが、玄悦が現代産科学の父と言われる理由です。
1766年、66歳の頃、自身の臨床経験をまとめた『産論』を出版。
因みにこの本は、漢文が不得手であった玄悦に代わって、当時の大儒者である皆川淇園(Ⅰ735-1807)が書いたことでも有名なんだとか。
玄悦は1768年、68歳の時には徳島藩医に取り立てられたそうです。
1777年、78歳で没。
彼が嚆矢となり、彼の2代目である養子の賀川玄迪(字は子啓)がさらに補い、まとめ直して完成したと言われる「賀川流産科術」は、かのシーボルトによって、ヨーロッパでも広く伝えられました。
彼の弟子は2000人を超えたと言われ、弟子の仕事も含めたら、救った命は数知れずでしょう。
彼は弟子に、極力堕胎の手術はしないように、と教えていたそうです。
当時は避妊の方法も不十分であり、いわゆる”口減らし”や”間引き”といった、今では考えられないようなことがまかり通っていた時代、彼は命の大事さを、生涯かけて訴えた訳ですね。
生い立ちからして、何やら人間味あふれる感じがしますね、この先生は。
合掌
◆参考文献
近藤出版社『日本史小百科20 医学』服部敏良 P216-217 他
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2012.12.20
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「葛根湯医者」という言葉がある。
これは古典落語で、
頭が痛ければ葛根湯
お腹が痛ければ葛根湯
何でもかんでも葛根湯
という、ヤブ医者のことを皮肉った内容で、有名な話です。
バカの一つ覚えのように、どんな症状にも、同じ処方しかしない医者がいるとしたら、それはヤブ医者かもしれません。
(あるいは、希代の名人かもしれません。)
また、蓮風先生の御尊父である藤本和風先生の言葉ですが、医者になって、ヤブをやる様な人は、そもそも医療をやめた方がよっぽど人助けだ、という話もあります。
〇
たまに患者さんで、
「カゼっぽかったから、薬局で買って葛根湯を飲みました。」
という人がいます。
僕はそのたびに、マジメに
「漢方薬というのも、処方を間違えると悪化する場合があるから、素人判断で軽々に飲むのはアブナイですよ。もしカゼっぽくて、
しかも治療に来られない状況であれば、症状を言ってくれればアドバイス出来ますから、遠慮なくお電話下さい。」
と、提案させていただくことがあります。
東洋医学では、いわゆる「カゼのひき始め」に対する漢方薬の処方パターンは無数にあります。
それは、
「どういう人が」
「どういうカゼを」
ひいたかによって、全部治療パターンが変わってくるからです。
ピタッと処方が合えば、面白いように劇的に治ります。
鍼でもそうです。
しかし、誤った処方をすれば、カゼなのに、1週間経っても、2週間経っても治らない、なんてこともあります。
またそもそも、葛根湯の守備範囲だって、「カゼのひき始め」だけなんかじゃ、全然ありません。
「東洋医学」・・・。
ホントに、軽んじて欲しくないよナア、と思います。
〇
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2010.04.05
昨日、4月4日の日曜日は、大阪で行われた、(社)北辰会本部臨床コースに参加してきました。
今回の内容は午前中は愛媛の水本淳先生による、「傷寒雑病論」シリーズ講義。早いもので今回で9回目を迎えました。
僕は前回、諸事情により出られなかったので、今回の講義を楽しみにしていました。
今回もサスガの内容でしたね。
水本先生は東洋医学に、臨床にとてもアツい先生です。
また、非常に話しの上手い先生でもあります。
(落語が好きらしい・・・。)
午後は藤本蓮風先生による「経穴解説の解説」+「太極陰陽論」。
前半はすでに書籍化されている『経穴解説』に最新情報を加えながら解説。
後半はさらに最近書籍化された『東洋医学の宇宙』に絡めて、現在中国で販売されている、『黄帝内経(こうていだいけい)』を解説したDVDを上映し、
これを同時通訳しながら陰陽を解説する、という面白い試みをなさっていました。
70歳手前にして、まだまだ新しいことをやろうとしておられる姿勢、素晴らしいと思います。
その後は藤本彰宣先生による「医学史」、島内薫先生による「方剤学と空間」と、2つのシリーズ講義でした。
短い時間でしたが、お二人ともサスガでした。
そして、終わった後はいつものように飲み会・・。
最終の新幹線で帰ってきて、今朝から臨床であります!
これが僕の普段の生活です。(笑)
飲み会では、今後の北辰会について、色々と興味深い話が出ました。
面白いことになりそうですよ~。
また午前中の講義で、水本先生から、
「明日は二十四節気で言うと”清明”です。」
という言葉が出ました。明日はそのお話。
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2010.01.31
今日は「喜」について書きます。
「喜」という感情なんて、あればあるほどイイに決まってんじゃん!
なければそりゃあ病気になるだろうけど、ある分には病気になんかなる訳ないじゃん!
・・・と思った方は、すでにして「喜」の少ない毎日なんじゃないかとお察しします。(苦笑)
まあそれは半分冗談ですが、東洋医学では、一見プラスに思える「喜」という感情も、過多になったり、過少になったりすれば体に不調を起こす、と考えます。
「喜」は基本的には(正常範囲ならば)「喜は気を緩める」「喜は気を下げる」と言って、精神的、肉体的な余分な緊張を緩和し、気を下げてくれます。
【参考】
『黄帝内経素問 挙痛論(39)』「・・喜則氣緩.・・」
『同 調経論(62)』「・・喜則氣下.・・」
ですから、強い緊張を強いられる仕事をされている方なんかは、定期的に「喜」という感情がどうしても必要です。
これが「笑い」であったり、恋人や家族との「安らぎの時」であったり、趣味や何かに「没頭する時間」であったり、人それぞれ違うでしょうが、
要は「満足感に浸る時間」のこと、と言えば分り易いかと思います。
・・・しかしこれも、「気が緩み”過ぎ”」になると問題です。
東洋医学では、「喜は心をやぶる」と言って、「喜」という感情が過度になると、五臓の中の「心」という臓に悪影響を及ぼす、
と考えます。
(ここでいう”心”は、西洋医学の言う心臓(Heart)のことじゃないよ!)
(因みに出典は『黄帝内経素問 陰陽応象大論(5)』です。)
特に「心」の機能のうち、主に正常な精神活動をつかさどる機能が障害されて、情緒不安定や精神異常、不眠など、様々な症状を引き起こす、と考えます。
ですから、東洋医学では、健康な人生には、好きなことをして、
「気が緩む」
時も必要だけど、ここ一番、
「ピシッと緊張する」
時も人間には必要だ、と考えている訳です。
これもやっぱりバランスなんです。
・・・なるほど、確かにそうですよね?
自身の日々を振り返った時、実感される方も多いのではないでしょうか?
・・・ところで、今回は“緊張”と”緩和”の話になりましたが、
「緊張と緩和の法則」
と言えば、落語会の巨人である2代目桂枝雀さん(1939-1999)が提唱した「笑いの法則」ですね。
知ってる人は知ってるでしょうが、人は緊張する場面で、それが緩和する時笑うのだ、というやつですね。
東洋医学では、「笑い」という感情表現も「心(しん)」の働きと関与する、と考えます。
【参考】
『黄帝内経素問 陰陽応象大論(5)』「・・在聲爲笑.・・」
『同 調経論(62)』「・・神有餘則笑不休.・・」
『霊枢 本神(8)』「・・心氣虚則悲.實則笑不休.・・」 など
お笑い番組や落語を見ていて「笑う」という現象を東洋医学的に考えると、
まず面白いものを見て「喜び」、
↓
そして「気が緩み」、
↓
それにより「心(しん)」が正常に働いた結果、
↓
「笑う」
となる訳です。
・・・ま、そんなこと考えながらバラエティー番組見てる人もいないけど。(笑)
東洋医学ではこのように、五臓(肝・心・脾・肺・腎)が、それぞれある感情、ある感情表現にも関与している、と考えています。
そこらへんの話も、そのうち書こうかな。
では次回は「思」についてです。
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