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2019.09.26
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これまでのお話し
さて、続きいきましょう!!
◆「周氏太極図」の解釈
前回も出したこの図。
↓↓
周敦頤さんの宇宙生成図(周氏太極図)な訳ですが、この図に関する詳細な解説がなされている本はあまりないようですが、私の手元にあるものだと、
やっぱり鈴木由次郎先生の『漢易研究』と、今井宇三郎先生の『宋代易学の研究』に詳しいですね。
(この二冊はマストだね。10年ほど前に、苦労して入手しといて良かったです☆)
まず、清明院のロゴにもなったこの図↓↓ですが、
これは「水火匡郭図(すいかきょうかくず)」と言います。
ちょっと難しくなりますが、ここまで来たら、簡単に解説、やってみましょう。
この図のドーナツの左半分は内側から白→黒→白、右半分は黒→白→黒、です。
白は陽、黒は陰だとすると、左は陽→陰→陽、右は陰→陽→陰、という順番になっています。
これを、易の八卦で言うと、左は「離火(りか)の卦」、右は「坎水(かんすい)の卦」で表されます。
☲(離火)
☵(坎水)
(↑↑真っ直ぐな横棒が陽を示し、途中で切れてる横棒が陰を示すのね。)
・・・で、「水火匡郭図」は左右で「離火と坎水」、つまり陰陽を示しています。
陰陽は繋がっており、真ん中には太極があり、図の下にはくっつくように半円が描かれ、これは陰陽が互根であり、しかも五行に連なることが示されています。
(五行の説明は次回)
ここで、宇宙の大きな陰陽を示すなら、陰陽を左右に割るのではなく、上下(天地)に割った方がいいのではないか、という疑問が浮かびますが、
清代の著名な学者である毛奇齢先生の解釈では、「左右」は方角で言えば「東西」であり、東西に離火と坎水を置くのは、北宋の儒学者である、
邵雍(しょうよう 邵康節しょうこうせつ 1012-1077)が強調した、易の「先天図」の考え方であり、左右が坎離(かんり)ということは上下(南北)は乾坤(けんこん)となり、
この思想(先天図の考え方)は道家によって受け継がれてきたことから、この図は、道家の内丹書である『周易参同契』の影響を受けている、という風に解釈なさるそうです。
(・・・ま、毛先生のこの説については反対意見や疑義もあるようですが。『宋代易学の研究』『占いの想像力』参照)
神野英明先生の『鍼灸・漢方の名医になるための秘訣』では、先天図というのは、陰陽の対待(たいたい)関係を示した図である、と説明して下さっております。
(まあ対待関係を簡単に言えば、対立と統一、つまり、あっちがなけりゃこっちもない、という陰陽関係のことです。)
因みに、『易経』の説卦伝における「天地定位、山沢通気」という文言を、『太玄経』では、「南北定位、東西通気」と置き換えています。
『太玄経』については長くなるのでいつか触れるとして、ここでは詳しくは述べませんが、たったこれだけの図で、「南北定位」が易の体、「東西通気」が易の用とし、
その上で、先天図は天地自然の法象、後天図は変化活動の法象、と仰る鈴木由次郎先生の解釈が、シンプルでシャープで、個人的にはすごく気に入っています。
まあ、簡単に言うと、清明院のロゴマークになっている「水火匡郭図」ってのは、
「場そのものや、森羅万象の関係性がもつ原理を示した図」
ってことなんですね。
上記のような考え(まあ他にもあるんだが。。)を知って、20代の半ば頃、妙にこの図の持つパワーに夜な夜な一人で興奮し、魅かれており、
開業したらロゴはこれかな、とか思っていました。(゚∀゚)
(ナツカシー)
続く。
2019.09.25
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これまでのお話し
さて、続きいきましょう!!
◆色々な太極図
さて、この太極を図に示したものをよく「太極図(たいきょくず)」と言います。
清明院のロゴマークの元になったこの図が、歴史上最初に登場した太極図だそうです。
↓↓
これは、中国、北宋の時代の儒学者、周敦頤(しゅうとんい、周濂渓しゅうれんけい ともいう。 1017-1073)先生が『太極図説』に書いた図、
ということで「周氏太極図」という呼称が一般的です。
これは実はいくつかの図が組み合わさった図なんですが、とりあえず一番上の〇は、このシリーズで説明した「無極而太極」を示し、次のシマシマの〇は「陰陽」を示し、
次に「五行」、そして最終的に「万物」という、宇宙生成の道理を示しているんだそうです。
因みにこの図は、後漢の魏伯陽という人物が著したと言われる『周易参同契』という、煉丹術に関する本の影響を受けていると言われます。
(鈴木由次郎『漢易研究』参照)
この図については、なんつっても清明院のロゴの元ですから、後ほどゆっくりとキッチリと説明しましょう。(`・ω・´)ゞ
清明院ロゴマークについて 参照
あと、まあなんつっても、太極図として有名なのはこの図でしょう。
↓↓
実は、この図の作者や来源はイマイチ分かってないみたいです。
まあ、諸説あるようですが、歴史上に登場したのは、一番上に示した「周氏太極図」よりも後、と考えられるようです。
(今井宇三郎『宋代易学の研究』参照)
この図は「太極陰陽魚図」とか、「陰陽魚太極図」とか、「天地自然の図」とか、「天地自然河図」とか、色々な名前があるようで、道教の道士がよく用いたことで知られています。
あと、アメリカのサーフブランド、タウンアンドカントリーのロゴとかネ。(笑)
あと、こんなのもあります。
↓↓
↑↑これは中国明代の来知徳(らいちとく 1525-1604)先生が著した図だそうで、「円図」とも呼ばれます。
(真ん中の〇を太極、白を陽、黒を陰とし、縦に入った黒線が陰、白線が陽だとする図です。『来註易経図解』より)
今は深入りしませんが、この図もまた、非常に深い意味を持っているようです。
あとは、韓国の国旗にみられるように、あらゆる国旗や軍旗、地方自治体のマークなんかにまで使われる「太極図」。(笑)
(因みに、李氏朝鮮の国王の旗と、国軍の軍旗に清明院のロゴと同じマークが使われていますが、清明院と李氏朝鮮はまったく無関係ですので。。。(苦笑))
また、韓国は、この図を朝鮮半島発祥の図だと主張しているとか。。。(苦笑)
・・・まあ、「太極図」というのは、色々な図柄や来歴や考え方があるにせよ、要は「太極」「陰陽」に含まれる深遠な哲学を、簡単な図で表現しようとした結果な訳ですね。
確かに、図にしてくれたら、クドクドと漢文で説明されるよりは、分かりやすくていいネ!!(゚∀゚)
続く。
2019.09.24
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9.22の日曜日は、(一社)北辰会定例会東京会場に参加してきました!!
この日は朝から実技訓練「原穴診・背侯診・取穴」。
初学者の方はまずは原穴や背部兪穴の正確な取穴部位や意味(穴性)の確認や基本的な触り方(フェザータッチ)の練習、中級者は、経穴のより精密な診方触り方、
上級者の人はそれをどう治療に結び付けるかの考え方の練習。
さらには、重要な合穴である「陰谷・曲泉」の取穴練習をしました。
これを臨床にどこまで活かせるかは受講者次第ですが、北辰会の講師はみんな真剣にやっています。
効果的に伝わればいいな、と思いますね。
午後は西東京で鍼灸梅庵という鍼灸院を開業しておられる竹山悠樹先生による「円形脱毛症の一症例」を、私と尾崎支部長で解説するという企画。
竹山先生は開業鍼灸師でありながら、幼少の頃より狂言師としても活躍しておられる個性派の先生です。
また、北辰会関東支部の運営面での事務関係でも能力を発揮して下さっており、縁の下の力持ち的な先生です。
この症例は先週、関西の本部でも検討した症例だったのですが、支部ではまた違った盛り上がり方を見せて、マズマズ良かったんじゃないかと思います。
先週も書いたように、円形脱毛症というのは決して簡単な疾患ではありませんが、色々工夫しながら、北辰会方式の弁証論治の精神に則って、
患部を触ることなく、一定の効果をあげた症例だったと思います。
今年度から久々にカリキュラムに症例検討会を入れていますが、これがやっぱ個人的には一番いいですね。
基礎中医学と臓腑経絡学をまずはやって、この医学の解剖生理学、基本的な病理学を学んだら、体表観察をやって、診断学、弁証論治の訓練をやって・・・、と。
今後もいい臨床家がたくさん育つでしょう。
終わった後は飲み会。。。
支部の飲み会に参加する人数も、10年前と比較したらずいぶん増えました。
喜ばしいことですね。(∩´∀`)∩
2019.09.23
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さて、続きいきましょう!!
◆戴震の気一元論。
「太極」「無極」の意味 2に、『道教事典』に書かれてある「太極」の意味の変遷を書いたが、ここに、
18世紀に清代考証学の大成者と言われる戴震(1723-1778)が出て、「存在の根源を気に求める思想」を決定的にした。
とある。
まあ、歴史的には王夫之さんから戴震さんの流れで、朱子さんの「理気二元論」の考えにさらに批判が加わって、
「理よりも気!」
「気こそは動き(自然界の運動)であり、存在の根源!!」
という理解が決定的になっていったようです。
さてこの、戴震さんの「気一元論」というのはどんなもんなんでしょ??
気のことを考える時の決定版的書籍である東京大学出版会『気の思想』には、戴震さんが
「気化流行、生々して息(や)まざる」
という表現を好んで用いたことを挙げ、戴震さんが「理」によって規定を受けない気の自己運動を認め、たえず運動することこそ気の本質的な性格とし、
静止することよりも運動することの方に大きな価値を認め、かつ生命(自然)を大いに尊重する、という思想を表明した、としています。(P475)
つまり、有形(形而下)も無形(形而上)も、一切は気の動きであって、気のその場その時でのありように名前を付けたのが「理」であるとし、
このように定義すると「気」を離れて「理」は存在しえない、ということになり、「理」よりも「気」を優先する立場をとりました。
・・・とあります。
ホントは戴震の論と王夫之の論をもっと精査しなきゃならんけど、この戴震さんの考え方に、北辰会の「気」解釈はかなり近いと言えるんじゃないでしょうか。
因みに、江戸期、京都の儒学者である伊藤仁斎(1627-1705)は戴震よりも約70年も早く、朱子の理気二元論を批判し、この「気一元論」を唱え、
後世に大きな影響を与えています。
後世に大きな影響を与えたということと、先見性という意味でも、伊藤仁斎の功績は非常に大きいと評価すべきでしょう。
伊藤仁斎の後、このブログでも何度も出てきている香川修庵、後藤艮山、並河天民、吉益東洞といった著名な医家が出てきて、いわゆる古方派医学が台頭し、
「一気留滞説」「万病一毒説」などの、日本的といわれる「万病一元論」とでも言うべきもの提唱し、医療界にある種の革命を起こしていきました。
約300年前の日本、江戸期のこの動きの延長線上に、現代でもよく言われるような
「中医学の弁証論治か、日本漢方の方証相対か。」
みたいな問題があることを考えると、ここらあたりの理解は非常に重要なことだと思いますね。
「方証相対」を含む記事 参照
次回、「太極」を図示した「太極図」に注目してみましょう。
続く。
2019.09.22
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さて、続きいきましょう!!
◆「気」の哲学の変遷
さてここまで、「太極」「無極」「その両者の関係」「鍼灸臨床家としてはどうか」あたりを題材として話を進めてきました。
「臨床家としてはどうか」というところで、北辰会ではこの医学の言う「陰陽論」を、単に「陰陽論」と呼ぶのではなく「”太極”陰陽論」として、
理解、運用するべきだ、というお話(臨床古典学)もしました。
蓮風先生の御著書では、中国、成都中医薬大学の教授で、易学の大家である鄒学熹先生の『易学十講』の論を参考に、陰陽論というのは「陰」と「陽」と「その境界線」の3つ、
「三を含みて一となす」という考えがあり、全て一つであるという太極と、陰陽と境界の太極があるからだ、と説きます。
(因みにこの辺の詳細(『易学十講』の部分的翻訳)は、北辰会機関誌『ほくと』17号に掲載されています。)
まあこれは、簡単に言えば何かを陰陽に分ける時に、その基準(境界)を明確に!というお話です。
そしてこれには、背景として「気一元論」という考え方があります。
「気一元論」を含む記事 参照
「気一元論」は、簡単に言えば「この世界は全て気で出来ているのさ」という考え方です。
東京大学出版会『気の思想』によれば、「気一元論」という言い方は、特に誰それさんが言い出した言葉、というワケではないようで、古くは『老子』『荘子』『淮南子』の中にもあるっちゃある考え方であり、
この考え方を強調したのは、中国では北宋の張横渠(ちょうおうきょ 張載(ちょうさい)ともいう 1020-1077)、日本では伊藤仁斎(1627-1705)が有名だそうです。
伊藤仁斎という人物 参照
(張横渠もせっかくなんでそのうち紹介しましょう。この人は何とあの程顥と程頤(二程子)の叔父さんです。優秀な一族だねえ~~ (゜レ゜))
荘子の
・・・因みに、現代中国では大きく気の哲学について3つの流れがあると考えているそうで、
1.程伊川と朱子の「性即理」の考え方(客観唯心論、客観的観念論)
2.陸象山と王陽明の「心即理」の考え方(主観唯心論、主観的観念論)
3.張横渠と王夫之の「気」の哲学(唯物論)
とし、3.の唯物論哲学こそ最高のものである、としているそうです。
(by 『朱子学と陽明学』島田虔次)
(因みに、王夫之の気一元論に関してはこの論文が参考になりました。)
しかしこの、3.の、気一元論を、全くの唯物論と解し、それを最高のものとする考え方と、北辰会の考え方は違います。
中国哲学、中国伝統医学に通底する「気」という概念は、唯物論でとらえきれるものではない、と考えています。
北辰会では「気」を唯物論でとらえ、最小精微な物質である、とするのではなく、むしろ生命原理、生命原体ともいうべきものとして、生気論的に理解しています。
つまり「気」を、物理学(ニュートン力学)の言うような質量を持った存在、と考えるのであれば、それとは認識を異にする、ということです。
(といって、量子力学の言うような素粒子とも同じでないと思いますが。)
・・・ま、「気ってなに??」という問いに対しては、トートロジー的になるけど、10年前に書いたように、「気は気です。」という答えがやっぱベストかな、と。
ここまでの話で言えば、生成論の太極も、場の論の太極も、認識論、存在論における主観と客観も、ぜーんぶただ一つの気の動きの一様態ですよ、ってことですね。
次回、清代に「気は動きである」この理論を完成させたと言われる戴震(1723-1778)さんを紹介します。
続く。
2019.09.21
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◆「陰陽論」ではなく「”太極”陰陽論」。 その②
さて前回は、蓮風先生の著書における「太極」のとらえ方を紹介し、北辰会が鍼灸臨床で「太極」をどう考えているのか、というお話を紹介しました。
僕らは、あくまでも現代日本の鍼灸臨床家なので、古代中国哲学や、哲学用語の歴史的変遷や、東洋医学のバイブルとされるような各種古典の内容を、
あくまでも現代日本人への鍼灸臨床に役立つような、理解運用の仕方をするように心がけています。
これが北辰会の提唱する「臨床古典学」という立場ですね。
因みに、(一社)北辰会では「無極」という言葉についてはあまり言及されないのですが、奥村裕一学術部長がかつて1997年に『全日本鍼灸学会誌』上に発表された、
という論説の中に、日本の江戸期の医家による、腹部における「太極」「無極」という表現が出てきます。
ここについても今回、ついでなんで、あとで触れておきましょう。(∩´∀`)∩
・・・ところで、前回言うように、北辰会では「陰陽論」を単に「陰陽論」と言わずに、あえて「”太極”陰陽論」と呼んでいるのには、陰陽は偉大な哲学、分析学だけれども、
あくまでも常に「太極を踏まえた上で」分析することが重要だ、というメッセージが含まれています。
陰陽という「二」で考えつつも、常に太極と言う「一」の視点を外さないこと。
ですので「陰陽論」は単純な二元論ではなく、「二元的一元論」なのである、という重要な主張です。
陰陽論が、森羅万象に対する単なる分析学なのであれば、その境界線やものさしは精密で精緻であればあるほど良いわけですが、西洋医学のように、
電子顕微鏡レベルにまで精密精緻になってくると、出来ることや分かったことが増える一方で、分からないことも増えていき、時に「木を見て森を見ず」となって、
結果的にかえって「自然(人体)のトータルな全体としてのバランスの調和」を見逃す、見誤る、ということが起こりうる訳ですね。
手術はうまくいったけど亡くなってしまった、とか、血液検査の数値上は薬は効いているけど、全体的な体調としては悪化した、などですね。
ここに、よく言われるように、西洋医学で治らないものが、東洋医学では治ることがある、という事実の謎の一つが隠されているのではないか、と考えています。
上記の考えは北辰会方式のすべてを貫いており、以前紹介した「総合と総体」の話や、「直観と論理」の話にも通じてきます。
「直観」を含む記事 参照
あくまでも「気一元」の世界観。
色々分けるけど、そもそも分けれないもの「太極=太一」なのだ、ということが大前提なんです。
続く。
2019.09.20
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◆「陰陽論」ではなく「”太極”陰陽論」。 その①
ここまでで、「太極」の意味、「無極」の意味、さらには「太極と無極の関係」について、僕なりに考えてみました。
まあ簡単にまとめると、「太極」はもともとは中国哲学の古典中の古典である『易経』の宇宙生成論から始まって、歴史的変遷を経て、道教や仏教との接触、
「無極」という言葉との比較検討を経て、より理解が深まり、高度な哲学用語となって、今に至っている、という感じでしょうか。
・・・で、この「太極」なるものを、我々東洋医学をやるものがどう考えるか、という話なんですが、何年か前に私も北辰会でこの辺の話を講義させていただいたことがあるんですが、
その内容は蓮風先生の御著書、『東洋医学の宇宙―太極陰陽論で知る人体と世界―』に書いてあります。
この本の中で、「太極」の意味に関して、蓮風先生はシンプルに、3つの意味で纏めて下さっています。
つまり、
1.天地創造分化の大本
2.陰陽する場
3.認識以前の状態
この3つです。
1.はこれまでにも出てきている、生成論の話です。
まずは混沌とした状態があって、それが陰陽に分かれて、さらに細かく分かれて、万物となった、という話です。
この話は有名な『淮南子』にも出てきます。
『淮南子』を含む記事 参照
2.は、「陰陽」というのは要は森羅万象(気)の「動き」のことで、相対的に動的な面を陽、相対的に静的な面を陰、と分ける訳なんですが、
この、「陰と陽が交わり、関わり、相互に動く場」そのものを「太極」と言う、という理解です。
よく我々は、もう間もなく亡くなる患者さんの脈や腹を診察した時、所見が1日の中でもコロコロ変わる、という状況に接することがあります。
そんな時、
「いよいよ太極が小さくなってきた」
という表現で、その現象を評価することがあります。
まさに、生命が現象する場(太極)である脈や腹部が、非常に小さく、狭く、弱々しくなってくると、脈で言えば、早くなったかと思ったら急に遅くなったり、
強くなったかと思ったら急に弱くなったりしますし、腹で言えば、臍の位置がコロコロ変わったり、また、腹の状態と脈の状態がチグハグになったりします。
3.は、認識する主体が、対象物を認識する”以前の”状態を「太極」と呼ぶ、ということであり、五感なり何なりで、対象を認識した時点で、
すでにそれは太極から陰陽の範疇に入っている、という意味ですね。
(ただし、次回書きますが、陰陽であっても、必ず”太極を踏まえて”陰陽に分ける、分析する、という意識が大事です。)
つまり、我々が日々患者さんを診るということは、
1(生成論).太極から生じた万物の一部である患者さんを、同じく太極から生じた万物の一部である我々が、
2(場の論).患者さんそのものを太極と考え、それを踏まえた上で、陰陽という物差しでもって、
3(認識論).四診という手法で陰陽の不調和を認識し、それを調える
という行いである、ということです。
次回もう少し補足します。
続く。
2019.09.19
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◆朱子の言う「理気二元論」とは。
前回、
南宋代の朱子(朱熹 1130-1200)は、無極と太極を同一次元のものとし、ともに「理」の基本的性格を表す語とし、有の次元に無の原理性を取り込んだ。
という文章を紹介しました。
・・・これ、どういう意味でしょ??
朱子さんが言うには、太極の本源が無極なのではなく、太極も無極も「理」の性質の一部、と同一地平で理解するわけですね。
ほんじゃ、朱子さんの言う「理」って何なんすかね??
まあ、生理学、病理学、物理学、心理学、理科学、義理、道理などなど・・・、現代日本語にもよく出てくる「理」という漢字。
これは、日本にこの「理」という考え方が深く浸透していることを示します。
「理」については、簡単な字義解釈については、以前纏めました。
「理」の意味 5 参照
朱子さんはそれまでの説をまとめ、再構成して、壮大な学問(朱子学)を構築した訳ですが、彼の言う「理」の持つ意味は、文脈によってなかなか多義性があるようですが、
要するに中心的な意味を一語で言えば
「ものごとの法則」
ということだろうと思います。
(ホントはこれを言うために性即理や理一分殊について書かないとなんだけど、煩雑になるので、ここでは割愛します)
(なお、これらの解釈は山田慶児『朱子の自然学』P444、大濱晧『朱子の哲学』P33、島田虔次『朱子学と陽明学』P60などを参考にしています。)
・・・なんかこれ、道教の言う「道(タオ)」と似てますね。
道教・道家思想 参照
(文脈によっては”同義”と書いている本もあります。)
・・・で、この形而上の概念である「理」と、形而下の概念である「気」は別のものだけど、両者は離れて存在することは出来ないよ、という風に説明して、
この世界(宇宙)の存在を説いたのが、朱子さんの有名な「理気二元論」てやつなんだそうです。
・・・で、この朱子学、「理気二元論」においては、有の原理である「太極」も、無の原理である「無極」も、形而上の法則である「理」の基本的な性質であるとして、
優位性や先後論なしに、同一次元でマルッと纏めた訳ですな。
これを、あえてもう少し詳しく言うと、『朱子語類 巻九十四』にあるように、
「無極は有理にして無形。・・・太極はこれ五行陰陽の理。」
とあるように、要は
「”理”の無形の面を無極、”理”の陰陽五行(つまり物質も含む”気”のこと)の根源である面を太極」
と言ったわけです。
さらにこれを、僕なりにかみ砕いていえば、
「”理”が物質を超越した面を無極、”理”が物質と連関する面を太極」
と言ったわけですね。
(・・・と、今のところ僕は解釈しています。)
朱子さんは、それが周敦頤の『太極図説』にいう「無極而太極」の意味である、と説くわけです。
太極と無極に違いはあるけど、「理(ものごとの法則)」という意味では同じであると。
・・・さて次に、なぜ蓮風先生がこの医学における陰陽論をわざわざ「太極陰陽論」と言っているかについて、考えてみましょう。
続く
2019.09.18
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◆「無極」の意味
(一社)北辰会の会員諸氏にとって、この「太極」「無極」というパワーワードは、非常に気になるワードでしょう。
また北辰会の会員以外の先生方も、東洋医学の勉強がある程度進んだら、気になる人は多い筈。
僕がちょうど北辰会にチョロチョロと出入りするようになった2000年代の初頭の頃、蓮風先生はよく「初学者のための太極陰陽論」というテーマで講義なさっていました。
(当時は難解で、聴いていてもよく分かりませんでしたが。。。(∩´∀`)∩)
その講義内容を分かり易くまとめた本が『東洋医学の宇宙―太極陰陽論で知る人体と世界―』です。
因みにこの本は、堀内齊毉龍先生の『弁証論治のための論理学入門』と姉妹編になっていることも見逃せません。
しかも、蓮風先生の御尊父である藤本和風先生は「無極会」という勉強会を主催されていたことでも知られています。
(残念なことに、無極会は現在はありませんし、無極会としての著作も残っていません。。。)
・・・まあそんな訳で、このワードは藤本家、北辰会が非常に大事にしていることが分かります。
東洋医学の考え方を理解していくうえで、また、北辰会方式を習得していくうえで、妙に気になる、この「太極」「無極」に対する理解というのは、
根本哲学に関わるという意味で、重要ではないでしょうか。
前回、北宋代の周敦頤(1017-1073)の「無極而太極」という、これまたパワーワードを紹介しました。
ここで、まずは「無極」について調べてみましょう。
平河出版社『道教事典』によれば、
◆無極
元来は”極まりない”という意味。
『老子』『荘子』『列子』に、無名、無物、無形などとともに、”無”の様態を形容する語の一つとして、哲学的意味を付与されている。
「列子」を含む記事 参照
(列子に関しては紹介してなかったですね、良い機会なんで、これも書きましょう!!)
その後、『易経』の「太極」とともに、”太極=有の原理”、”無極=無の原理”として、より重い意味を持つようになる。
『易経』を含む記事 参照
つまり、有の本源に無を置くという思想から、儒教を超える道家思想、という図式を表現した。
道教文献の中にはもちろん”極まりない”という意味での「無極」という使われ方もあるが、主に、”太極の本源としての無極”という用例が目立つ。
また、「無極」を、経典そのものや、神仙の名称としても用いている。
南宋代の朱子(朱熹 1130-1200)は、無極と太極を同一次元のものとし、ともに「理」の基本的性格を表す語とし、有の次元に無の原理性を取り込んだ。
(んー、ここはムツカシー(゜o゜))
(以上引用。土田健次郎氏の文章を竹下が抜粋要約補足改変。)
〇
・・・まあなるほど、「無極」はもともとは諸家の本に出てくる、極まりない、というほどの意味の言葉だったのが、『易経』の太極(生成論の最初を意味するアレね)と比較検討されていくことで、
理解が深まっていき、これも認識論哲学的な、重い意味を持つようになった、と。
このように、儒家の考え方と道家の考え方というのは、時代時代で接触したり離れたりしつつ、言葉の意味の検討を通じて、切磋琢磨してきた歴史があるようですね。
(また、古代中国で、インドから来た仏教を理解するのに、道家や儒家の考え方がその解釈に入っていったことも興味深いですね。)
まあ、「太極」「無極」という熟語の理解においては、宋代の周敦頤から朱子の流れがやはり決定的であるようで、ここをもう少し理解するためには、
朱子学における「理」の意味を少し掘り下げて理解した方がいいように感じます。
続く
【参考文献】
『道教事典』平河出版社
2019.09.17
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9.15の日曜日は、大阪で行われた(一社)北辰会定例会に参加してきました!!
今回は前日の土曜の夜に日本伝統鍼灸学会の学術部会議があったので、前泊ではなく、早朝に起きて大阪に向かうってやつをやってみました。
(これ、ほぼはじめてに近かったですが、キツイキツイ。。)
でも、早起きして行ったかいがありました。
午前中は実技訓練。
愛媛の水本先生の班で、久々に先生の勢いのある臨床に触れ、メチャクチャ楽しかったです☆
サクサクと、素早い体表観察に基づく直線的な論理で病因病理を組み立て、鮮やかに治療するスタイル、大好きです。(*‘∀‘)
また、僕が普段意識していないところも先生は意識しておられ、非常に参考になりました。
合穴の意味、胸部の諸穴の診察、湧泉の観察、もっと意識せねば。。。
午後は関東支部の竹山先生の症例「円形脱毛症」。
これも2017年版の皮膚科の診療ガイドラインでは
「単発型あるいは少数の脱毛斑(数個程度)の症例の場合,発症後1 年以内は経過を観察するだけでもよい.また経過の長い全頭型や汎発型の場合,
治療を断念しかつら等を使用するよう勧めるという選択も妥当な対応といえる.」
とあるように、明確な治療法が確立されていない、なかなか難しい病気であり、しかもCQ(クリニカルクエスチョン)において、鍼灸治療については
「評価:C2 行わない方がよい」
となっており、その理由として、
「鍼灸の施術方法は施術者や患者ごとに同一の方法ではなく,病状の経過の記載も不十分で,医学的な評価水準には達していない.現段階では鍼灸治療による発毛効果に関して有用性を論じる段階にはないが,
すでに広く実施され、発毛効果を示す症例報告がある点を考慮し,また無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスも存在しな
いことから,推奨度をC2 とした.」
とある。
このように、EBMの考え方においては、たとえ明らかに有効と思われる有効例がいくつかあったとしても、その論理と手法がバラバラで、大規模な比較優位のきちんとした手法に則った報告がなされていなければ、
良質のエビデンスが存在しない、と断じられ、「やらない方がよい」という結論になってしまうのです。
因みに、鍼灸学校で使用されている『東洋医学臨床論 鍼灸編』では、全頭脱毛や壮年性の脱毛(禿髪症)、精神の問題で患者自身が髪を抜いてしまう抜毛狂(トリコチロマニア)などは「注意を要するもの」とし、
自律神経の失調や精神的ストレス等で増悪する円形脱毛については「適応となるもの」と位置付けて、東洋医学的な弁証分類と治療法を提示している。
このように、鍼灸師側としては、
「効果があるものもあるんだから、やったっていいじゃないか、やる価値があるじゃないか」
という立場なわけです。
今回の症例では、1年間、キチッと定期的に治療に通ってもらって、完璧ではないにせよ、脱毛以外の不定愁訴も含め、一定の結果を出しているという、
実にリアルな症例でした。
明日来るかもしれない脱毛症の患者さん、会員諸氏は学ぶところが多かったと思います。
実は今週末、関東支部でこの症例を解説します。
支部ではどうなるか、S先生が荒らしてくれるそうなので、来られる方はお楽しみに!!!(∩´∀`)∩
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